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『みゆきさんを着せ替え隊・前編』
──ハロウィンと誕生日と仮装パーティと──
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いつもの学校帰り、いつもの気の合う四人組で歩く道に、いったいどこから飛ばされてきたのか、茶色に変色した枯れ葉が何枚も風に舞っていた。その光景に、かがみはなんとなく晩秋の気配を感じてしまう。暦はすでに十月も後半。センター試験までは残すところ三ヶ月ほどである。
「でさ、『ハロウィン』といったら仮装だよね」
「また唐突だな」
妙なタイミングで妙な話をこなたが振ってきた、とかがみは思う。
「幽霊、魔女、コウモリ、黒猫、ゴブリン、バンシー、ゾンビ、魔神、それにドラキュラやフランケンシュタインの怪物。うーーん、まさに乙女の夢だよね」
「ずいぶんとイヤな乙女の夢だな。いたずらっ子の夢の間違いじゃないのか?」
「あ、それ知ってる~。確か『お菓子を持った子どもはいねが~』とか言いながら怪物が東京タワーに卵産んだりして、それをウェディングドレスを身にまとった女子中学生が『愛の天罰、落とさせて頂きます!』って叫んで退治する……奴だよ、ね?」
「つかさ、それ色々と混ざりすぎ」
「はうぅ」
的確なかがみのツッコミに、たった一撃でつかさは轟沈する。
「……まあ、『ハロウィン』といったら仮装だよね」
「そこからやり直すのかよっ」
脱力したかがみは、ニコニコと微笑みながら状況を傍観していたみゆきに助けを求めた。
「みゆき、二人にハロウィンのこと、教えてあげて」
「そうですね。もともとハロウィンは、ケルト人の行事が由来になっているそうです。彼らのカレンダーでは一年の終りは十月三一日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていたそうです。これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いていた。これが今のハロウィンでも行われるカボチャのランタンとか、仮装になっているんですね」
「……とにかく、『ハロウィン』といったら仮装だよね」
「お前、他人の話を聞く気ゼロだろ」
心底呆れ返ったかがみが糸目でツッコむ。無論こなたはそれを華麗にスルー。
「というわけで、今度の日曜に衣装合わせしたいから、私の家に十時に集合ってことで。特にみゆきさんは絶対着てね……じゃなくて来てね」
「いやそんな、書き文字でないとわからない駄洒落を織り込まれても反応に困るんだけど。まあとにかく、話はわかったわ。今度の日曜十時にこなたの家に集合ね。でも、服とかはどうするのよ」
「むふふふ、そこはそれ。その道のスペシャリストであるこの私に、全てまかせたまへ~」
「まあ、なんだかワクワクしてきますね。今度の日曜が楽しみです」
「そうか? 私は逆に行く気が失せて来るんだが……」
いかにも楽しげなみゆきの態度をみて、なぜか意味もなく不安を覚えるかがみだった。
◇
糟日部の駅でみゆきと別れた後、三人は電車の中でなおも不毛な打ち合わせを続けていた。
「で、とりあえず話は合わせておいたけど、ほんとにあれでいいの?」
「ハロウィンの衣装合わせを名目に、みゆきさんの誕生パーティをサプライズ。いや~、我ながら完璧な計画だよ。しかもみんなのコスプレ姿まで拝めるし」
「どうも邪な考えが混じってるような気がするんだが。ほんとに大丈夫なんだろうな」
ジト目でかがみがこなたを睨みつける。当然、その程度でひるむこなたではない。
「いや~、どーもみゆきさんは、みんなの前で構えすぎる傾向があるじゃん? だからたまには、我を忘れてはっちゃけることも必要だって教えたいんだよ。それにはコスプ……仮装が一番というわけ。わかったかね、かがみんや」
「なんか微妙に本音がにじみ出てたような気もするけど……まあ、確かに一理なくもないわね。わかった、今回だけは話に乗ってあげる」
「ねえこなちゃん。私にも何か手伝えること、あるかな?」
「そだね~。つかさは少し早めに来て、料理作るの手伝ってくれると嬉しいな」
「うん、わかった」
満面の笑みを浮かべてつかさがうなずく。それを横目に見ながら、やや疲れた様子のかがみが再び口を開いた。
「しかたがない、じゃあ私たちは九時くらいに行くとするか」
「あ、別にかがみは遅くてもいいから」
「なんでよ」
「だって料理じゃかがみは戦力外だし。つまみ食いなんかしたくなったら困るでしょ」
「悪かったな、戦力外で。どうせ家事、苦手だよっ!」
なにもそこまで言うことないじゃない、と微妙に傷ついたかがみだった。
(つづく)
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