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『サーニャ/こころのうた』
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いつの頃からだろうか。
空の向こうには友達がいると信じていた。
ラジオの届けてくれる異国の音が好きだった。
あの空を飛び越えて、いつか異郷の友達に会いに行ける日を夢見ていた。
やがて私は音楽の勉強のためウィーンの町へ旅立った。
だけどやっぱり、友達はできなかった。
ある日、ネウロイが攻めてきた。
ウィーンの町も瘴気に覆われ、人の住めない土地と変わり果てていった。
ブリタニアへと逃げ延びた。
そこで私には、魔女の力があると言われた。
他に行き場もなかったので、そのまま軍に加わった。
だけど私の心は空っぽだった。
両親のことはなるべく考えないようにした。
しばらくの間、ただあてどもなく空を飛んでいた。
そして私は、エイラと出会った。
彼女はいろんなことを知っていた。
春の喜びを。
夏の狂騒を。
秋の寂しさを。
なによりも冬の厳しさを。
雪の色が本当は白ではなく青だということを。
真冬の夜、ときたま森の木が凍りついて破裂することを。
待てど暮らせど、一日中太陽が昇らない季節があることを。
深呼吸するだけで肺を痛めてしまうことがあるということを。
たとえ晴れていても、ただ風が吹くだけで吹雪が巻き起こることを。
空気中の水分が、光り輝くダイヤモンドダストに生まれ変わることを。
本当の寒さには、塩入りのココアよりウォトカのほうが効き目があることを。
いつの頃からだろうか。
私には飛ぶ目的ができていた。
私は守りたかった。
この世界を守りたかった。
エイラのいてくれる世界を守りたかった。
エイラが愛している人、モノ、故郷。その全てを守りたかった。
ひとりで夜の空も飛べるようになった。
フリーガーハマーも使いこなせるようになった。
遥か彼方のネウロイの声も聞き分けられるようになった。
全ては、エイラのため。
彼女のためなら、いくら寒くたって平気。
彼女のためなら、どんな訓練だって平気。
彼女のためなら、夜間哨戒飛行だって平気。
彼女のためなら、ネウロイとの戦闘だって怖くない。
彼女のためなら、なんだってできるのだ。
今夜も私はひとり基地を飛び立つ。
誰よりも高く。
誰よりも遠く。
誰よりも深く。
そして誰よりも静かに。
地球の丸みが感じられるほどの遥かな高み。
ここは、私とエイラだけの世界だ。
(Fin)
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